ジェロントロジーとは?

「ジェロントロジー」という言葉を聞かれたことがありますか?専門分野の方々を除
けば、日本ではほとんど知られていないといってもいいでしょう。日本語で「老年
学」、「老人学」と訳されています。アメリカでは1950年代に大学で教えるとこ
ろが現れ、現在その数は100校を超すといわれます。現在わが国で、正式にジェロン
トロジーを教えている大学は、桜美林大学大学院1校です。2008年4月から東京大学
で新たに学部横断型教育プログラム(寄付講座)としてジェロントロジーという科目
ができました。東京都の研究機関として東京都老人総合研究所(1972年設立)や国立
長寿医療センター(2004年設立)などがあります。

ジェロントロジーは、医学・生理学・社会学・心理学・栄養学などさまざまな学術分
野を横断的にカバーする「マルチディシプナリー」の学問です。加齢(エイジング)
に伴う生涯発達や高齢化社会における生活、人間関係、心や健康の管理、老人介護や
諸制度・政策、経済など、さまざまな領域の問題を、多角的な側面から問題をとら
え、総合的に研究するのが特徴です。

ジェロントロジーのgeroは、ギリシャ語で“オールドエイジ” を意味します。

ジェロントロジーの役割が高まっています

わが国で、2015年に4人に1人が65歳歳以上という世界一の超高齢社会が到来しま
す。「世界の高齢化推移」グラフに明らかなように、他国と比較してきわめて早いス
ピードで高齢化が進みます。
にもかかわらず、わが国の高齢化に対する科学的な考え方や施策、対策、意識は欧米
に大きく遅れているのが現状です。企業においても、地球温暖化や環境、エネル
ギー、資源といった問題にはたいへん関心が高いのですが、高齢社会をビジネスとい
う立場から考えることは、医療、介護などのサービス、高齢者向け機器や食品など一
部を除けば、皆無だといって過言ではありません。

教育や政治、産業などで、高齢社会に対する科学的な取り組みがなされていない原因
の一つは、高齢社会の問題が驚くほど多岐にわたっていることにあるといえます。高
齢社会の問題といえば、「ジェロントロジーの世界」に示すように 経済、制度、産
業、介護、健康、医療、倫理、衣食、住居、生活、仕事、環境、といった幅広い領域
にかかわってきます。
このように問題が輻輳しているゆえに、さまざまな学門分野を横断的に研究するジェ
ロントロジーが問題を解決する上で力を発揮します。しかし、わが国の社会風土は、
専門分野を超えて活動することを困難にしています。

日本応用老年学会をはじめ、さまざまな研究機関で行われた研究成果や、海外での制
度や事例、研究などに関する情報を集め、利用できるような取り組みがいま求められ
ているように思われます。

ジェロントロジーの歴史

アメリカでThe Gerontological Society of America が創立されたのは1945年です。
それ以前にもアメリカおよびヨーロッパで高齢者の問題を科学的に研究しようという
動きがありました。

人口統計などをベースとする社会学的な研究から始まり、老化現象の研究などからバ
イオロジー、そして医療の分野へと関心は広がり、さらに高齢者の介護施設や高齢者
の心理的な問題など社会的応用分野へとジェロントロジーの世界は広がっていきまし
た。

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■■  老年学(ジェロントロジー)とは?
■■         柴田 博 桜美林大学大学院教授
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 老年学は人口学と共に、まだ100年の歴史しかもたない、きわめて新しい
学問です。どういう学問であるかに関して、学者により多少意見が異なり
ますが、おおよそ次のような内容をもつことでは一致しています。
1) 人間の加齢変化を扱う科学である:
    人間は生まれてから死に至るまで加齢変化をします。それは
生物学(身体)的にまた心理学(精神)的に表れるのみでなく、
社会学(人間関係や社会関係)的変化をももたらします。
2) 中高年者に内在する問題を明らかにする科学である:
    健康問題、経済問題、その他解決を要するあらゆる問題を
探ります。
3) 人文系の学問もふくまれます:
    哲学、宗教、文学、歴史など、人間の精神に大切な人文学の
学問もふくみます。
4) これらの老年学の研究の応用:
    この中には、シニアビジネス(産業老年学)や学校や社会に
おける教育をあつかう学問である教育老年学もふくまれます。

 とくに、日本にはこの応用老年学の広がりが遅れており、今回、本学会
を立ち上げたのはそのためです。アメリカでは30年前に高等教育における
老年学(AGHE)が確立しており、応用老年学の専門雑誌もあります。
 これまでの応用老年学の領域は主として以上述べた4つでした。しかし、
老年学は進化していくべきです。高齢者が増えていく社会全体の問題に
対し解決の道筋をつくっていく役割を担っています。
 そういう意味で、世代間問題の研究は老年学にふくまれるべきと思い
ます。事実アメリカでは教育老年学の一部の研究者は世代間問題の専門家
としても活動しています。
 ともあれ、老年学は学際的な学問です。さまざまな学問が連携し協力し
合うことが大切です。同時に19世紀までにあまりに細分化された学問の間
の壁を取り払い再統合していく使命をもつ学問が老年学です。社会の
あらゆるセクターの人々にとって大切な学問であり、しかも1つの領域の
専門家のみでは達成できない学問でもあります。産・官・学・民の連携の
大切さを強調するのはそのためなのです。