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●フォーラム「アジアの発展と日本」2010年1月27日


外務省アジア大洋州局地域政策課長 伊藤 康一氏

◎2010年1月27日 フォーラム「アジアの発展と日本」


◎外務省アジア大洋州局地域政策課長 伊藤 康一氏


◎(動画)
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NPOフォーラム (例会No.135)フォーラム「アジアの発展と日本」
ゲスト:外務省アジア大洋州局地域政策課長 伊藤 康一氏
2010年1月27日

【レポート1】
(記 水口 海)
ASEAN+中国、インドの経済成長率は、2007年で過去3倍に膨らんでいる。アジア全体では
きわめて高い成長率である。中間層の増加により購買力の向上が期待され、まだまだ今後
成長の余地がある。広域経済連携をつくる動きが本格的している。アジアはEUと比べ地域
経済協力が進んでいないと言われることもあるが、域内貿易は5割を超えている。対外貿易
は主としてアメリカが多い。2008年に起きた経済危機はアメリカへの貿易依存度が高い国
ほど打撃を受けた。特にシンガポールの打撃は大きかった。アメリカのマーケットに頼ら
ないようにすべきだという議論が行われている。
日米を見ると、日本からの輸出のほうが大きく依存度が高い。中国からアメリカへの輸出
総額が圧倒的に高くアメリカへの依存度が高い。アメリカと相関関係にあり、アメリカが
ダメージを受けると連鎖的に反応する。中国の経済成長は急激に加速している。
鳩山内閣で打ち出した政策は麻生内閣と似たようなものである。アジアの潜在的なパワー
を期待する。GDPは名目3%、実質2%を上回る成長、2020年度650兆円程度、失業率は3%
台への低下へ。2020年までにはAPECを含む形で自由貿易圏をつくる。枠組みを作りながら、
アジア全体の所得倍増を目指す。グローバルスタンダードはこれまで欧米主導で作られる
ことが多かったが、アジア発で世界的な標準基準を作っていきたい。
地域協力の枠組みは錯綜しているが、アジア域内での依存度が増してきている。過去10年
で3倍くらい。最近のアジア全体の協力傾向の発端は1997年のアジア通貨危機。タイバーツ
の貨幣価値の低下。アジアは一蓮托生であると実感。金融危機への対応によって、各国の
協力関係がスタート。アジア地域での金融協力メカニズム、セーフティーネットワークが
生まれてきている。それゆえ、リーマンショックの時にもそれほどひどい状況にはならな
かったのではないか。いざとなったら、1000億ドル単位で緊急融資が行われる体制ができ
ている。
東南アジアの人と仕事をしていると、みんなが、納得できる、心地よく参加できる体制と
いうアプローチを目指す傾向があると実体験でも実感している。センセーショナルなニュ
ース性はないものの、じわじわと協力関係が進展している実感はある。特に貿易、エネル
ギー、食糧、防災、開発など地道に進んできている。97年のアジア通貨危機、2001年のア
メリカ同時多発テロ、2008年の世界金融危機、そういうものがきっかけになって、ASEANを
ハブとしたアジアの協力関係が進みつつある。2009年10月のタイ、チャアム・ホアヒン会議
でも、鳩山総理がASEAN首脳会議で東アジア共同体構想について概ね各国の協力の一致を得た。
鳩山総理の東アジア共同体構想・地域協力体制の前提には日米同盟がある。そこを土台とし
た上での長期的なビジョンとして東アジア共同体を形成。貿易・投資、金融、環境、教育
など、みんなが賛同し協力できるところから始めようというアプローチで臨んでいる。
2009年11月にシンガポールで鳩山総理がアジア共同体について講演した。それ以前の2008
年6月には、オーストラリアのラッド首相が「アジア太平洋共同体」の創設を訴えた。経済
や安全保障の対応は、既存の枠組みでは不十分であり、新しい枠組みの提案をした。そこで、
2020年を目指し「アジア太平洋共同体」創設を訴えた。東南アジア諸国はこの提案は、既存
のASEANの枠組みを否定していると反発。
経済連携の動きは、アジア全体の中で日本は遅れているといわれるが、そうでもないのでは
ないか。日本は二国間で自由貿易協定を結んでいる。しかし、アメリカとは、交渉にすら入
っていない。大きな壁になっているのは農業。農業の自由化が要求されるのは間違いない。
アメリカの牛肉、オレンジなどは現在入ってきてはいるが、今後自由化となれば、大きく変
わるのではないか。農業の国際競争力が弱いといわれる韓国も、日本と同じようだが、米国
と自由貿易協定を結んだ。日本は韓国と同じ決断ができるかどうかが問われている。
日本はアジアでさらに地域的な広域経済圏を築いていけるのか。広域経済連携構想がある。
もっとも大きいといわれるのがアジア太平洋の自由貿易圏構想(FTAAP)である。太平洋を越
え、アメリカが入っているかなり大きな自由貿易構想。広域の経済連携は日本の成長にとって
プラスになるのは間違いないだろうが、いつ交渉が始まるかは定かではない。環太平洋戦略
的経済連携協定(TPP)は多様な国が入っており、やる気のある国が集まって出来ている。
日本がどういう対応で、どう決断を下すのか。農業の貿易自由化が出来るのかということが
問われている。
アジアの金融危機をきっかけに生まれたチェンマイ・イニシアチブでは、二国間のさまざま
な取り決めを結んでいる。13カ国で二国間の束が出来、トータルで900億ドル、お互いにいざ
というときには資金を融通しようという仕組みが生まれた。2008年のアメリカの金融危機を
きっかけに、今まで二国間の束だったものをさらにひとつのプールにしようと。1200億ドル
まで拡張しようという動きがある。IMFのアジア版のような発想も出てきているが、IMFを仕
切るアメリカの動きも微妙なところである。
・21世紀東アジア青少年大交流計画について(19ページ)
毎年6000人のアジアの若者を日本に招聘するというもの。留学生の感想には日本に対する印象、
理解が高まったという意見もあり、長期的な意味があるのではないか

・メコン地域について(28ぺージ)
アジアの中でも日本がてこ入れしようとしているのがインドシナ地域。ミャンマー・タイ・
ベトナム・ラオス・カンボジア。東南アジアが発展する中で一番発展が遅れている地域である。
シンガポールは、日本を抜くような勢いがあり、他の国と比べると成長率が桁違い。アジア
全体の底上げで経済発展をはかっていかなければならない。ASEAN自体のコネクティビティ、
東西経済回路、輸送路をつくるのが目標。中国、東南アジア、日本を結ぶルートになることを
期待している。
BIMP-EAGAは島国の共同体。メコンやインドネシアに比べたら進んでいる地域ではあるが、
まだまだ開発が遅れている。島を一帯としてとらえて、資源開発を行う。相対的に豊かだが
遅れた国の問題解決を目指す。
・中国について(35ページ)
中国は1980年代には想像できなかったほどの経済成長。経済開発路線になり、農業の自由化
から経済の自由化が始まった。日本との貿易活動が引き金になったのではないか。台湾は中華
民国ということで中国とは別に、日本と緊密な貿易関係、ネットワークがあった。日本と台湾
との関係により、ノウハウ、工場の移転、技術の伝達などがあって、今の繁栄の基礎が作られ
たのではないか。安倍政権くらいから日中政権は少しづつ好転し始めて、鳩山政権で成熟して
いったのではないか。東シナ海の工場資源の開発、国防、チベットの問題などがあるが、協力
関係としては良好ではないか。好むと好まざるとにかかわらず、日本の経済成長には中国を省
いては考えることができない。中国にとっても日本との協力関係がなければ発展を維持できな
いのでは。日米関係の土台が安定してこそ、アジア各国との問題も進めることが出来る。
ASEAN地域協力の枠組みの中でも、今後アジアの地域として友好・協力関係を求めていく必要
があるのではないか。
・インドについて(37ページ)
インドも中国に次いで潜在的な力があることは間違いない。人口も中国についで、第二位。
経済成長率の6%〜7%を維持している。日本の経済シンクタンクのリサーチをみていると、
若年労働力がある若い国。中国は40〜50年すると高齢化社会になるのではないかといわれて
いるが、インドには20歳未満の人口が4割もいる。戦前にチャンドラ・ボーズと中村屋の関係
もあり、比較的親日感情が高い。抑圧されてきたヨーロッパへの猜疑心、反発があるのでは
ないか。中国とインドの関係も現在は割と友好になっている。昨年末に鳩山総理もインドへ
訪問した。インドが将来アジアでも大きな存在になると思うし、日本もインドとの関係強化に
力を入れている。

東アジア共同体という構想は、ある意味大きな働きを持つものに間違いない。オーストラリア
も大きな提案をしている。世界の中で、日本は今後いかにアジアの枠組みに貢献し、発展して
いくかということが問われている。

<質疑応答>
質問:外交に大事なのは文化ではないか? 言語に対する考えと今後の政策は?

「経済が繁栄するためには、文化の底力もある。中国では、教育機関や語学研修センターに
予算をかけている。日本には国際文化交流基金もあるが、予算が減らされている。外務省と
しては国のあり方が問われていると思う。日本に留学したいという外国人もいるし、言語の
教育は大事だと思う。相互理解ということではいいと思うが、技術系の人が日本で学位をとり、
キャリアパスが作ることが可能な環境があればいいと思う。英語を選択し、アメリカに留学
すると将来のチャンスが広がる。日本でそれ以上の機会を提供出来るかというと難しい。
外国人が入ることに対して抵抗があるからである。一例として、看護士、介護士を一定の割合
で受け容れるということに対し、「職が奪われる」、「低賃金になるのではないか」といわれ
ている。資格をとるためには、日本の試験に合格しなければいけないし、それも外国人には難
しい問題。複雑な議論をして、国内でコンセンサスを得ながらやっていかなければならない。
外交といっても大事な課題だと思っている」

質問:中国でゼネコンがビジネスチャンスを求めることは可能なのか?

「難しい問題だと思う。これまでと変わってきているのは間違いないが、変わっていない部分
もある。中国はひとつの世界だと思う。WTO,国際ルールにのっとらなければいけないという
ことで真面目にやっている。問題を起こしたら制裁を課せられるということも中央政府は
わかってきているが、地方政府はわかっていない。上海などは大都市なのでかなりマシだが、
内陸に入ったら別世界というところもある。ルールや法整備に関して、かなりいい加減な面は
ある。日本、アメリカなどの主要貿易パートナーが介入しているので10年前よりはよくなって
きている。しかし、ビジネスコンダクトについては日本人間の誠実さ、律儀さがなく、カルチ
ャーが違う。長期的信用を重んじるとか、取引関係の信頼維持の面に関してはかなりドライ。
台湾人はコツを得ていて、中国と日本のモノの考え方の違いをよくわかっている。台湾と組む
ことでうまくいったという事例も聞いたことがある。台湾をうまくビジネスパートナーに引き
込むことでうまくいくこともあるのではないか」

質問:アジアの共通通貨は今後あり得るのか?

「鳩山さんが首相になる前に「voice」という雑誌に書いた論文に東アジア構想があった。
共通通貨について書いていた。アメリカを排除した排他的経済領域を作ろうとしている、と
いうようにアメリカではかなり歪曲して報道されていた。ヨーロッパでも、ユーロ導入につい
てはかなり揉めていたわけなので、カンボジア、シンガポール、日本で共通通貨を持つという
のは10年たっても無理なのではないか。作ったとしても経済的に意味がないのではないか。
時々話題になるし、財務省の金融関係の中でアイデアが出ないこともないが、そんなに簡単な
ことではないと思う。経済や財政上の法律を超えた話であり、アジアではそういう決断が出来
るかというと難しいのではないか」

質問:外貨頼みの経済、グローバル化が進むが、高齢化が進む日本ではどのような施策をとれ
ば日本経済の強みになるのか?

「私が注目するのは人という側面。若年層が減っていくのは仕方のないことかもしれないが、
人に着目して言えば、日本の企業や先端的な研究・開発をする場所で、外国人を受け容れても
いいのではないか。優秀な人材を登用するのに、今後日本人だけに限るというのは難しいので
はないか。外国人を浮けいれることも重要なのではないかと考える」

質問:前原国交大臣がゼネコンのアジア市場について話しているが、工期が遵守できないなど
の問題点もある。国家と民間企業が協力する必要があると思うが、具体的に外務省にどのよう
に支援してもらえるのか?

「これまでやっていなかったというわけではない。鳩山政権以前から成長戦略策定会議、
『アジアを日本の内需とする』というキャッチフレーズがあった。内閣の中でも関係省庁が
ある。具体化するために何をするか。経団連などとも、意見交換を始めている。建設分野に限
らず、外交だからビジネスとは関係ないというのではない。政府がどのように何をやるかを
検討し始めている」

質問:ASEANやAPECの成長戦略の中でも、新しく出てきたBIMP-EAGAのアイデアはどこから
出てきて、発展するとどうなるのか?

「構想としては先行しているメコン地域、東のインドからアジアまでの輸送回路を結ぶという
構想段階ですすめている。島国のほうが相対的に豊かだからといって、うまくいっているわけ
ではない。国単位ではなく、島や国境を越えて、開発計画を作っていけないかと考えている。
はっきりしたことはまだわからないが、政治的な効力がないこともない。ASEANの合意を得て、
これから始まるというところである」

質問:日本の先端技術をアジアにというのはあるが、不必要な技術提供はあったのか?
また、軍事面において、世界の中でのアジア、アジアの中での日本の位置づけは?

「環境保全技術。中国に対し、日本が排気ガスの脱亜鉛装置についての技術を伝えるには、
ものすごい抵抗があった。環境汚染というものは、経験してみないと心底やろうという気には
ならない。中国に限らず、アジアに対し、公害の経験を踏まえ工業化への環境配慮を訴えて
いるが、反発されている。数年ほど前から中国では相当深刻な環境問題が出始め、取り組みが
行われている。こちらからの押し付けはできないので技術交流をやっていかなければならない
と思う。軍事面については、相対的にみて安定しているとはいえ、北朝鮮の核兵器開発、ミサ
イル実験というのもある。中長期的にみると台湾海峡。今のところ、中国との関係は安定して
いるが、台湾が独立するような動きがあれば、武力行使も辞さないだろう。台湾を攻撃すると
なれば、沖縄の目と鼻の先なので、危険がある。さらに中国の南方でも、領有権を巡り争いが
ある。中国は軍事力の増強をしてるので不透明。多国間協力、地域協力がないことはないが、
この地域の安全は二国間の安全保障対策、日米安全保障対策があるからこそ、アジアの安定は
保たれていると思う。アジアの地域的な信頼感を少しでも増すよう、国防白書を出すなどして
相互の信頼関係を高めよう、という議論はしている」

質問:外交の方針は?

「日中関係を重視しているということはこれまで、どの政権においても間違いない。外交の
基本方針は、あまり変わらないと私自身は思う。どの政権であっても、マスメディアは批判
すると思うが、日米安保自身は維持されている。その上での日中関係、対アジア政策であると
思う。今後、鳩山政権の施政方針演説が行われる予定だが、その時に政府の方針が示されると
思う」

質問:外務省が内向き、守りに入っている印象を受けるが?

「その言葉に関しては、激励と受け取る。私たちには、私たちの役割がある。外交の現場に
携わってきた者として、民主主義に則った政治主導の下、外交を含めた国の政治、リーダー
シップに対し、現状分析などを述べていく気概は持っている」

●「禁無断転載」

【レポート2】
(記 吉岡健太郎)
2010年には中国が日本のGDPを抜くと予想される世界情勢の中、今後の日本の在り方
について司会者が問題意識を投げかけ、会場の雰囲気が引き締まります。
その後、伊藤課長が19:00から45分間、貿易・金融・各地域の現状・東アジア共同体
構想について説明して下さいました。

1、貿易面について
 現在、アジアではASEAN10カ国+中韓印の経済成長率が非常に高く、中間層の増加に
より購買力の飛躍的向上が期待されています。そのため、今後、需要からの成長を目指す日本
にとってアジアは非常に重要な存在となっています。
東アジア地域協力の現状として、経済相互依存関係の深化、地域共通の課題の増加、中国・
インドの台頭があります。それらの背景の下、ASEANをハブとする様々な協力機能の強化
が進んでいますが、アジア地域協力枠組みは非常に複雑で分かり辛いという問題点があります。
そのような中、既存の枠組みを壊すべく、オーストラリアのラッド首相の提案で、アジア太平
洋共同体構想が生まれました。
アジア太平洋共同体構想は、米国・日本・中国・インド・インドネシア等、アジア太平洋地域
主要国の主導者が一同に集い、経済、政治、安全保障の全ての課題に関して対話や協力を可能
とする枠組みの2020年までの創設を提唱したものです。
しかし、ゆるやかに結合してゆくのがアジアのスタイルであり、政治主導での急激な結合は
ASEAN諸国の反発を招いており、交渉は難航しています。
また、アジア・太平洋における広域経済連携はEAFTA(東アジア自由貿易圏)構想・CE
PEA(東アジア包括的経済連携)構想・FTAAP(アジア太平洋の自由貿易圏)構想が
あり、中でも米国を含むFTAAPが今後有力視されていますが、未だ具体性は不明確です。
このような状況下で、積極的に自由貿易協定を結ぶ意思を持つ国だけで構成するTTP
(環太平洋戦略的経済連携協定)が具体的な交渉に入っており、日本はその枠組みに入るか
否かの選択を迫られています。

2、金融面について

1997年のタイバーツの暴落による通貨危機が発端となり、チェンマイ・イニシアティブ
と呼ばれる相互援助の枠組みができました。
チェンマイ・イニシアティブとは、金融危機時に各国の中央銀行間で緊急融資の契約を結ぶ
相互援助の仕組みです。近年の金融危機でアジア経済は大打撃を受けましたが、金融のダメー
ジが比較的少なかったのはチェンマイ・イニシアティブが効果を発揮したからだと考えられ
ます。
現在のチェンマイ・イニシアティブは2国間の取り決めの集合体にすぎませんが、今後は
資金を一箇所にプールし、そこから金融危機時に各国に拠出する形態が検討されています。
しかし、アジア版IMFともなり得るため、アメリガ等の反発が予想されており更なる検討
が必要です。

3、アジアにおける施策
・ASEAN地域の重要性
ASEAN地域は5億8000万人の人口(世界全体の約8%)を持ち、過去10年間に高い
経済成長率を誇り、中間層の急激な増加により今後購買力の飛躍的向上が期待されています。
更に、ASEANは経済だけでなく政治・安全保障・社会・文化面で日本にとって重要な存在
となっています。
中でも、アジア全体の中で発展の遅れているメコン地域の重要性が高いとされています。
現在のアジア地域は経済格差が非常に大きく、一つの共同体になるのは難しいと考えられる
ため経済援助によって底上げを図る必要性があります。
具体的な施策としては、南北経済回廊・東西経済回廊を代表とする輸送経路の整備があげられ
ます。当該回廊はメコン川流域を東西、南北に走る輸送経路であり、タイの大きなマーケット
と各国を結びつける重要な役割を持っています。また、日本にとってもインド・東南アジア・
日本を結ぶ重要な貿易ルートであり、今後の活用が期待されます。
また、BIMP(ブルネイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン)と呼ばれる島嶼部に
おいては、島単位での経済格差が大きいため、国単位で把握するのではなく、島嶼部を一つの
エリアと捉えて問題解決を図る事により効率的な経済支援を行っています。

・日中関係について
 中国は1985年の経済自由化以来、当時からは予想できなかった経済成長を遂げました。
中国の経済発展には日本が大きく貢献しており、日本経済にも中国が不可欠であるため、
今後も密接な関係を保つ必要があります。
日中関係は安部政権から好転し始め、東シナ海資源開発問題・食品の安全・軍事の不透明性・
遺棄科学兵器処理問題・チベット及びウイグル情勢等様々な問題が存在していますが、交渉に
より、少しずつ改善しています。

・日印関係について
 世界人口第2位であり、20歳未満が四割を占める非常に若い国です。30年後、50年後
は中国においても高齢化が進むと考えられていますが、インドはまだまだ若い国であると予測
されており、今後の成長性が期待されています。
日本とは長期的に良好な関係を保っており、12月に鳩山首相が来訪する等、関係強化に力を
入れています。

4、東アジア共同体構想について
日米同盟を外交の基軸をしつつ、長期的なビジョンとして東アジア共同体を構想しており、
貿易・投資、金融、環境、教育等の可能な分野から、開放的で透明性の高い地域協力を着実に
進めていく事が重要であり、各地域の多様性をふまえ、柔軟な発想で臨む事が必要です。
今後、鳩山政権が東アジア共同体という大きな流れを作ろうとしている中、オバマ大統領や
オーストラリア首相もアジアにおける関係強化に興味を持っており、その中で日本がいかに
役立ってゆくかが問われています。

【質疑応答】
19:45から20:55まで参加者から途切れなく質問が続きました。
伊藤課長が一つ一つ丁寧に答えて下さいましたので、掻い摘んでご紹介します。

Q、アジアにおける日本語ネットワークの現状について。
A、語学ネットワークの予算の多い中国に対し、日本では予算が削られているのが現状。
  言語・文化は経済発展の為の重要な要素であるため無視できない。
  また各国のエリートが日本に留学しキャリアを重ねるキャリアパスが脆弱。
  現在国の在り方が問われている。

Q、中国はチャンスがあるが政治的なビジネスリスクが高い。ビジネスにおける対策は。
A、中国国家は国際ルールに則る流れがある。
しかし地方には未だ浸透していないため、依然ビジネスリスクは高い。
  台湾人が中国の地方政府と関係を保ちつつビジネスをするノウハウを持っており、
  日本人の技術にも魅力を感じているため、台湾企業と力を合わせると良い可能性がある。

Q、アジア共通通貨の実現可能性について。
A、アジアにおける貧富の格差が大きすぎる事、またアメリカの反発が問題。
  ユーロ導入時は比較的格差の小さい国家間であったにも関わらず、たくさんの問題が
起きた。
  日本とカンボジアが同じ通貨を持つというのは現実味が無いというのが現状。
  また、導入の利益も明確ではない。

Q、今後の人材高齢化の中で、どうすれば日本は発展できるか?
A、優秀な人材を各国から集める事が重要である。
  アメリカを見習い、身近に外国人の存在を受け止める意識改革が必須。

Q、アジア市場を開拓する企業に付き纏うビジネスリスクに対し、政府はどういった
  対策をしているのか。
A、現在、政府が外交面からビジネスの援助をするための具体的検討を行っている。
外交だからビジネスは関係ないというスタンスは取らない。

Q、日本の援助に対するアセアン各国の関心は?
A、BIMPの島単位の開発、輸送路計画、メコン以外の可能性等が注目されている。

Q、日本の技術の強みは?
A、環境技術が主力になるのだが、環境汚染は経験しないと分からないものなので、
  成長期にある各国にはなかなか理解が得られないのが現状。

Q、軍事面について。
A、全体的に安定はしているが台湾・中国間が中長期的に不安定。
  中国の軍事力の透明性を高める必要があり、話合いが進行している。
  アジアのバランスは日米関係を中心として保たれているのは間違いない。
  日米関係が非常に重要。

Q、民主党政権の外交の方針が自民党政権に比べ明確でないように感じる。
A、外交の基本は変わらない。
  自民党も日中関係を重視していたし、民主党も日米関係を重視している。
  基本的なスタンスは今後の施政方針演説で明らかにされる。

Q、米中に比べ日本政府は内向き・守りがちで今後落ち込んで行く印象がある。
  政府内に対策・気概はあるのか。
A、現状を改善すべく様々な提案をしてゆかなくてはならないと思っている。
  政府内では皆国を支える気概を持っている。

質疑応答終了後は21時から場所を移動し、懇親会を行いました。
参加者の皆さまはすぐに打ちとけ、終始笑い声の耐えない和やかな雰囲気の懇親会でした。
参加者の皆さま、遅い時間まで有難うございました。

●「禁無断転載」

【感想】
(Gゴロン)
表参道の東京ウィメンズプラザで、
講演会に行ってきました。
主催は、NPOamiaです。
講師は、外務省アジア大洋州局の課長さん。
東大、外務省、ハーバード大学院、ジュネーブWTO,北京の大使館勤務という経歴を持つ、
見るからに俊才そうな方です。
私の外務省のイメージは、ODAのカネを世界にばら撒き、海外では若造までが有名ゴルフ
クラブの会員権を持ち、夜な夜な高級ワインで乾杯し・・・とまあ、こんな感じだったの
ですが。
これからは大変です。まじめにきちっとアジア重視の外交方針の下に、情報を収集し、低下
しつつある日本のプレゼンスを高めてほしいと思います。
講師の課長さんは、こういう私の懸念を知ってか、知らずか、なかなかできる方で、よく
やってくれているようですが。
それと、中国との付き合い方で
「好むと好まざるとにかかわらず・・・」
うまくやっていかねばならない、と、
私の普段の口癖と同じことをおっしゃっていたので、共感です。
いずれにしても、
中国とインドの経済発展が、日本を取り巻くいろんな分野の地図を塗り替え、それにあわせた
新しい枠組みを模索して、アジア外交は動いている。
・・・と書けば、
たった、二行だが、複雑で困難。金融や農業など、アメリカの鼻息をうかがわなければ進行
できない分野もあるだろう。
熱心に聞き耳を立てていた50名くらいの人たちは、ゼネコン、不動産、商社、金融、流通、
内閣府・・・など、今の不況の只中、第一線に居る人たちが多く、
質問も、現状の厳しさを反映した切実なものが多かった。
だけど、なかには、今から中国に進出すべきかどうか・・・などといった、悠長な企業のかた
も居ましたが。
業績が落ち込んでいるから中国というのは、切羽詰りすぎで、危ういと思います。

●「禁無断転載」